アリクイ工房

迷い犬を保護した話「小犬のまゆげ」を綴っています

犬がきた  〜12月29日(1)

朝から取りかかっていた赤字修正を終え、取引先にメールを書く。
校正ファイルを添付して、リターンキーを景気よく押す。
ジュワッ と音がして、メールが送り出された。

さてと。
年内の作業はここまで。
残りの作業は正月休み明けだ。
いい加減に年賀状の宛名書きを始めないといけないし……

年も押し迫った12月29日の午後3時ころ。
パソコン周りの片付けを始めたときだった。

コンコンコン コンコンコン コンコンコン

誰かが玄関ドアをノックする。
公園で遊んでいるはずの息子が、水を飲みに帰ってきたのかもしれない。

「おーい、開いてるよー」

仕事スペースにしているオープンロフトから声をかけるが、ノックの音は鳴りやまない。
手が汚れているか何かで、ドアを開けてくれ、ということか?
自分でどうにかしろよな……とムッとしながら玄関に行き、ドアを開けたら、誰もいない。
おやっ?

コンコンコン コンコンコン コンコンコン

ノックの音は続いている。
ああそうか、とリビングを振り返ると、息子がテラス窓を叩いていた。
胸になにやら毛むくじゃらのものを抱えている。
その隣には友だちの こうすけくんが、不安げな表情で立っている。

「お父さん、いぬっ、いぬっ。犬を連れてきたっ」

ふむ。毛むくじゃらの正体は、犬だったのか。
毛足の長い小型犬。
ヨークシャテリアっぽい? ってことは室内犬? なぜ公園にいたんだ?
わけがわからずポカンとしていると、こうすけくんが口を開いた。

「あのっ、公園で遊んでたら、犬が歩いてきたんで、みんなで追いかけて、それで、それで……」

「まあ落ち着いて。最初からちゃんと聞かせて」
と、改めて話を聞く。