アリクイ工房

迷い犬を保護した話「小犬のまゆげ」を綴っています

預ってもらえない!? 〜12月30日(2)

犬を寝床ごとクルマに乗せて、息子と一緒に最寄りの駐在所に行く。
昨日子どもたちが話したからだろう、若い巡査はすぐ事情を察してくれた。
さっそく「預かってください」とお願いするが、どうも巡査の表情が険しい。

「警察としては、迷い犬も拾得物として扱います。
 拾得物には保管期間があって、その間に持ち主が見つからなかったら、拾った人に権利が発生します」
「ええ、そのことは知っています」
「通常の拾得物の保管期間は半年で、その間は警察が責任をもって預かります。
 ですがペットの場合、そこまで長くは預かれないんです。
 今回ですと、年末年始があるので、1月5日までの1週間となります」
「ですから、それを過ぎたらまた引き取るつもりですが」
「いえ、預かった以上警察が責任をもつことになり、またお返しすることはできません」
「となると、5日を過ぎたらどうなるのでしょう?」

「手続きに従って処分することになります」

……うかつだった。
たしかに、たとえば鞄を拾ったとして、警察に「一時預かり」をしてもらうことはできない。
預けるか、自分で預かるかのどちらかだ。
ペットも拾得物として扱われることは知っていたのに、特例として「一時預かり」してもらえるものだと、思い込んでいた。

朝に細君と、「飼う」かどうかはともかく、5日を過ぎたらうちで預からなければならないだろうな、と話していた。
飼い主探しと並行して、それまでの間にうちで受け入れるかどうかを考えればいいか、と、対応を先延ばしするつもりだった。

けれども。
[駐在所に預ける=数日間で解決しなければ「殺処分」]か、
[当面のあいだうちで預かる]か、
を、今、この場で、決めなければならなくなった。

 

  正月の帰省のときはどうする?

  娘の受験勉強のジャマにはならないか?

  誰が毎日散歩をさせるのか。

  そのために早起きできるのか……

 

様々な思いが頭の中を駆け巡る。

このままずっと家にいるの? と困惑する細君の顔が頭に浮かぶ
昨日の こうすけくんの不安げな表情も浮かんできた。
息子は話を理解しているのかいないのか、さっきから犬の体をワシャワシャとなで回している。
犬は息子に身を委ね、「やれやれ」と諦めている風情だった。

犬と目が合う。
ただじっと、見つめられた。

 

心に決めた。

「では、このまま連れ帰ります。
 子どもたちの意見を聞かないまま、殺処分することになるかもしれないことは決められません」

「そうですか。では、そちらで預かっていただくために書類を書いていただきます」

拾得物の届けとともに、こちらで預かることを届け出る「拾得物件預かり書」にサインをする。

犬は正式にうちで預かることになった。
クルマに乗せて帰るため、犬を抱えあげたとき、連れてきた時よりも重く感じた。
たとえ小さな生きものでも、命を預かる責任感はずっしりと重いのだった。

『結局連れ帰った。悩んだ末のこと。独断でスマン』
と細君にメールする。

『いやー 参ったなー(汗)』
と返事が届いた。