アリクイ工房

迷い犬を保護した話「小犬のまゆげ」を綴っています

朝の散歩 〜12月30日(1)

 ワンッ ワンッ ワンッ
 ワンッ ワンッ ワンッ

時計を見ると、朝6時半。
布団を抜け出してリビングに行く。
「さっきから鳴いてるんだよね」
朝食の用意をしていた細君が言う。

玄関の段ボール囲いの中を覗くと、犬は落ち着きなく足踏みしながら、

 ワンッ ワンッ ワンッ

と鳴き続けている。

声を聞きつけて、息子も自分の部屋からやってきた。
急いで着替えて、2人と1匹で散歩に出かける。

犬の相変わらずヨチヨチ歩くが、昨日よりは足元がしっかりしている。
リードを握る息子の右側半歩後ろを、大人しく付いていく。

昔、実家で飼っていた雑種犬コロの散歩はたいへんだった。
庭から通りに出た途端に、この時とばかりどんどん先に行き、隙あらばダッシュしようとする。
そんなコロに負けないように、力を込めて引っ張りながら歩いたものだ。
犬の散歩というと、そんなイメージが強いから、この犬の行儀の良さに目を見張る。
きちんと躾されていたのか、それとも、足が弱いお年寄りに飼われていて、ゆっくり歩くクセがついているのか。

昨日の昼過ぎまで、一度もあったことのないⅠ人と1匹が、さもアタリマエといった風情で、ぼくの前を歩いている。
犬が、息子に従ってくれている。
寝床と食べ物のある場所まで、自分を抱えて連れてきた人だと理解して、息子を現時点での飼い主と認めているかのように。
昨晩は勝手がわからず、犬の顔色を窺うように接していた息子が、飼い主然としている姿が妙におかしい。


小一時間、家の周囲をうろうろする。
といっても、せいぜい半径50メートルといった範囲を行ったり来たりだ。
犬は枯れるまでおしっこをして、形のあるうんこをした。
体調はいいようだ。

家に帰り、庭で水を与えると、勢いよく舐めた。
口の周りの毛がビショビショだ。
夜にかけてやった古タオルでワシワシと拭いてやる。
昨晩と同じビーフ缶を与える。
これも元気よく舐めて、あっというまに平らげた。

今朝は日射しがあって、風もなく、いい陽気だ。
南側のデッキに寝床を運び、リードをつないでやる。
犬は大人しく寝床に入り、うずくまって寝息を立て始めた。
まったくもって手間のかからない犬だ。

細君はパートに出かけたあと。
ぼくと息子は、娘と一緒に遅い朝飯を食べる。
食卓から犬の様子がよく見える。
細君が出掛けた日の朝食は、会話も少なく黙々と食べるが、この日は違った。
ぼくら3人はなんども犬に目をやり、散歩の様子や、近所の犬の話をしながら、賑やかにトーストをほおばった。