アリクイ工房

迷い犬を保護した話「小犬のまゆげ」を綴っています

選択肢は1つ 〜12月29日(3)

細君がこうすけくんに話しかける。

「飼い主が見つかればいいけど、見つからなかったらどうするの?
 ずっとうちに置いておくわけにはいかないよ。
 こうすけくんの家は飼えないんでしょ。
 たいちくんやまさとくんはなんていってたの?」

「たいちの家はもう2匹飼っているし、おばあちゃんが犬に対して厳しいんで、たぶんダメだって。
 まさとくんも家族が多いからダメだって言ってた」

となれば、飼うにしろ預かるにしろ、候補は我が家しかないということか。
息子はもともと犬が好きで、散歩中の犬を見かけると寄っていっては なで回し、ご近所じゅうの飼い主に警戒されている。
いつもの脳天気ぶりで、「じゃ、とにかくうちに連れていこう」と言い出したに違いない。

ことの経緯はわかった。
さて問題は、息子の腕の中で小首をかしげているこの犬をどうするか、だ。
ため息をついて黙り込んだ細君から話を引き継ぎ、子どもらに問いかける。

「命を預かるっていうのは、君たちが思っている以上に大変なことなんだ。
 飼い主が見つかるまで、きちんと面倒みないといけないし、見つからなかったらどうするかも考えないといけない。
 もしかしたら保健所に連れて行って処分してもらうかもしれない。
 ……『処分』の意味はわかるか?」

「わかります。でも可愛そう……」
と、こうすけくん。

時刻はもう4時半。年の瀬の夕刻、だいぶ肌寒くなってきた。
毛は長いが体が小さい犬は、体を震わせていた。
額から伸びる長い毛の隙間から様子をうかがう2つの目は、不安げに見えた。

「ぼくはどうなるの?」
と問いかけているように感じた。

2人の子どもと1人の大人と1匹の小犬が、ぼくを見つめる。
仁王立ちして腕組みしながら、目をつぶって考えた。
が、いくら考えても、答は1つしかない。

「わかった。うちで預かる。
 君たちが責任をもって飼い主を探せ。
 後のことは、あとでまた考えよう」

「やったっー!」と息子。
「よかったなー!」と犬の頭を撫でるKくん。
細君は苦笑いしながら家の中に入っていった。

ついさっき宅配便で荷物が届き、その空き箱がちょうど玄関にあった。
電話帳を重ねた程度の小振りの箱だが、持ってきて犬を入れたらピッタリ納まった。
小さな箱に毛皮を押し込み、頭をちょこんと乗せてみた、という感じ。

大学受験を目前に控え、部屋に籠もって勉強していた娘が、いつもと違う気配に気づいて外に出てきた。

「あれっ、どうしたの!? うちで飼うの!?」

目をまん丸にしてぼくに尋ねる。
返事のしようがなく、苦笑いした。
そんなやりとりなど何処吹く風で、犬は体を丸めて小さな寝息を立て始めた。